私たちはみな、物心つく頃には当たり前のように言葉を話しています。ではいったい、いつ、どのようにして、自らの母語というべきものを習得していったのでしょうか? ワシントン大学の学習脳科学研究所所長パトリシア・クール氏が、子供の成長過程における、脳と言語のメカニズムに関する検証を行ないました。
赤ちゃんや子どもは7歳までは語学の天才なのです。それから一貫して能力は落ちていき、思春期以降は表から消えてしまいます。
この学習曲線に異議を唱える科学者はいませんが、「なぜそうなるのか」について世界中の研究機関で研究がなされています。
ワシントン大学の研究所では、発達における最初の臨界期、つまり赤ちゃんが自分の母語で使われる音を習得しようとする時期の研究に焦点を当てています。音の学習を研究することで、言語の残りの部分や、子どもの社会的、感情的、認知的発達における臨界期についてもモデルを得られるのでは、と考えています。
そこでワシントン大学の研究所は、世界中で使用されている技術を使用し、あらゆる言語の音を用いて赤ちゃんの研究をしています。赤ちゃんを親の膝に座らせ、「アー」から「イー」のように音が変わったら首を回すよう訓練します。正しいタイミングでできたら、黒い箱がライトアップされて、パンダが太鼓を叩きます。生後6ヵ月の赤ちゃんはこの実験を喜んでします。何がわかったのでしょうか?
どこの国で試そうとも、どの言語を使おうとも、赤ちゃんはあらゆる言語のあらゆる音を聞き分けられます。これは驚くべきことで、皆さんにも私にもできないことです。私たちは文化に縛られているので、自分の母語の音は聞き分けられても、外国語の音は聞き分けられません。そこで疑問となるのは、私たちはいつ世界市民から言語に縛られた大人になるのか、ということです。その答えは、最初の誕生日を迎える前です。
例えば、『R』と『L』の区別は英語では大事ですが、日本語ではそうではありません。生後6〜8ヵ月の赤ちゃんは日米でその聞き分け能力は全く同じです。2ヵ月経つと驚くべき変化が現れました。アメリカの赤ちゃんの成績は上がり、日本の赤ちゃんは下がります。しかしどちらの赤ちゃんも、まさに自分が習得する言語に向けた準備をしているのです。
さて、この重要な2ヵ月間に何が起きているのでしょう? 音声発達の臨界期に、頭の中ではどのようなことが起きているのでしょうか? 2つあります。1つは、赤ちゃんは熱心に私たちの会話を聞き、統計を取っているのです。
赤ちゃんは言語の統計を吸収し、それによって脳が変化し、世界市民から私たちのような文化に縛られたリスナーへと変化するのです。でも、私たち大人はもはや統計を吸収しません。私たちは発達の初期に形成された記憶の表現に支配されているのです。
(後編へ続く)
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