アルファベットの基礎となった原理は、もしひとつの記号がある子音をはっきり表すために用いられるとするなら、人間の言葉を記録するためには約30の記号で充分だ、ということだった。
アルファベット文字が発生した年代を正確にきめることは不可能である。紀元前1300年ごろまでに、それはシリア、パレスチナですでに普及していた。
アルファベット表記の発明は、普通人にも文字の初歩をなんとか学ばせるようにして、学問を大衆化したのである。アルファベットによって、それまでは特殊な神官団の中に保持されていた文明社会の高度な知的伝統が、かつてないほどに、俗人や一般人に解放された。さらに重要なのは、アルファベット文字のおかげで、俗人、一般人が、文明共同社会の文字による世襲財産に貢献することが非常に容易になり、結果としてその財産の種類と幅と量が大いにひろげられたことである。例えば、アルファベット文字がなかったら、アモスのような無学な牛飼いとか、その他だれにせよヘブライの預言者の言ったことなどが記しとめられて、後世今日にいたるまで人の思想と行動に影響を与えることはなかっただろう。
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