神田大尉と山田少佐

軍事

行軍中、先頭小隊の交替を命ずる山田少佐の号令が聞えた。神田大尉はその号令を聞くたびに神経質に唇を震わせた。
彼は、今まで、大隊長山田少佐を信頼していた。尊敬もしていた。軍人らしい軍人だと思っていたが、今度の雪中行軍における山田少佐の態度は了解に苦しむほど奇怪であった。山田少佐は神田大尉を一教導将校としか見做してはいなかった。
(山田少佐が指揮官として自ら号令を掛ける以上、自分は指揮官としての権限を返上して一教導将校として甘んじておればよいのだ)

①どうすれば神田大尉は山田少佐を説得することができたのか。
そのヒントは徳島大尉が行った説得にあるのではないか。
「この雪中行軍が死の行軍になるか、輝かしい凱旋になるかは、この行軍に加わる人によって決まります。雪地獄の中で一人の落伍者が出ればこれを救うために十人の落伍者が出、十人の落伍者を助けるために小隊は全滅するでしょう。雪地獄とはそういうものです」

②どうすれば山田少佐は神田大尉からの意見を活用できたのか。
そのヒントは児島大佐がとった態度にあるのではないか。
彼は、徳島大尉のような部下を、何人か持ったことがあった。こういう男がこういう言い方をする場合は、その事柄が意外に重大なものであって、まかり間違えば責任問題さえ引き起こしかねない要素を含んだことが往々にしてあった。注意してかからないといけない。こういうときは言いたいだけ言わせたほうがいいのだ。彼はそう思った。
「遠慮することはない。思ったとおりのことを言って見るのだ」

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