貨幣は、モノとモノとの交換の仲立ちをすることで、生産と消費とを時間的・空間的に切り離すという社会的機能を果たしている。
貨幣が介在することで、供給と、需要は、切り離され、これが好景気不景気の景気循環を生み出す直接的な契機を作り出した。
貨幣によって、財サービスの受渡しと、代金の支払い決済は、時間的・空間的に分離することができるようになる。このズレによって「信用供与」が生じ、小切手などが生み出され、更にそれが決済手段・支払手段として準・貨幣として利用されるようになる。
貨幣と引き換えに、自分の生産物を他人に与えるという行為は、自分のものを、自分では消費せずに、他人に消費させてやる。その対価として、明日以降、同じもの或いは同じ価値を持つものを返してもらう約束(=請求権)をする。その証として貨幣を受け取る。このとき、貨幣は「将来の約束」=「信用」を表徴している。「信用」をあらわわす証書は「紙」でも構わない。
貨幣を贈与されると、その人に恩義・責任を負ったように感じる。選挙から贈収賄まで人を手なずける手段として貨幣は社会的機能を果たしている。
しかし、貨幣に託された「将来の約束」は、時として裏切られる。貨幣の裏切り方には様々な形態が有り得る。交換しようとしたときに、自分が手渡したものよりも低い価値のものとしか交換できないという「通貨価値の下落」=「インフレーション」はその一つ。
インフレーションが起きると、社会的に大規模な富の移転が発生する。財サービスの供給者は得をし、消費者は損をする。借金の貸手は損をし、借手は得をする。戦争が起きると常に成金が生み出されるのは、通貨発行権を持つ国家と結託したり、趨勢を目敏く嗅ぎ付けたものが、財サービスを売り惜しみ・買占めて、インフレーションの効果を極大化する術をもっているためである。
通貨供給が増加すると、財・サービスの購入に充てられない大量の資金は資産市場(株式・債券・土地・貴金属など)へ向かう。既に発行された証券が売買されるだけのセカンダリー・マーケットは、富の再配分がなされるだけのゼロサム・ゲームの場である。買えば値上がり、値上がったものを担保に借金をして更に買い増すと、更に価格が上昇するという「バブル」が醸成され易い。このプロセスは、加速度的な資金供給量の増大によって支えられるため、新たな資金供給が途絶えると、賭博上の掛け金はあっという間に回収され、価格は暴落し、高値掴みしたものは破綻する。これも大規模な社会的な富の再配分であるが、最終的に得をしたものが良くわからなくなるという特徴がある。また、資産価格の変動は、実物の財・サービスに対する消費や投資にも重大な影響を及ぼし、経済を恐慌に突き落とすこともある。
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